ロピタルの定理の怪2 [ネコ騙し数学]
ロピタルの定理の怪2
ロピタルの定理には幾つかのバージョンがある。
ロピタルの定理1
関数f(x)、g(x)は閉区間[a,b]で連続、開区間(a,b)で微分可能とする。f(a)=g(a)=0で、しかもが存在するならば、
である。
[証明]
a<x<bとすると、f(a)=g(a)=0だから、
また、条件より、関数f、gは[a,x]で連続かつ(a,x)で微分可能だから、コーシーの平均値の定理より
となるcが存在する。
したがって、
[証明終]
ちなみに、上の定理の証明でf(b)とg(b)は使っていないので、定理中の条件にある閉区間[a,b]を
としても同じことである。
ロピタルの定理2
関数f(x)、g(x)は点aを除いた点aの近傍――穴あき近傍――で連続かつ微分可能で、とする。このとき、極限が存在するならば、極限も存在して、
である。
ロピタルの定理3
関数f(x)、g(x)は点aの近傍で連続かつ微分可能でf(a)=g(a)=0とする。このとき、極限が存在するならば、極限も存在して、
である。
ロピタルの定理1とロピタルの定理3の違いは右側極限か極限かの違いと考えることができ、この両者は同じものとみなすことができる。
対して、ロピタルの定理2とロピタルの定理3の違いは、点aを除いた点aの穴あき近傍と点aを含む近傍の違いであり、これは、f(a)、g(a)ならびにf'(a)、g'(a)が定義されていないか、されているかの違いと考えることもできる。
ロピタルの定理2では、関数f(x)とg(x)がx=aで定義されていようがいまいが、とにかくでありさえすればいいということ。
また、ロピタルの定理2の方が条件が緩くいので、定理を適用できる範囲が少し広がる。
ロピタルの定理2とロピタルの定理3の条件の違いを理解してもらえたのではなかろうか。
さてさて、昨日、ネットで、とある大学の数学の先生が書いたものの中に次のようなものを見つけた。それをすこし編集して紹介することにする。
問題1 次の極限値を求めよ。
[解答]
これは0/0の不定形の極限だから、ロピタルの定理より
だから、は存在せず、よって、は存在しない。
[解答終]
さてさて、とある大学の先生がお書きになられた問題1の解答は正しいか否か。
ちなみに、問題1の解答には次のような注意がついていた。
[注意]
にロピタルの定理を用い、
よって、としたくなりますが、これは間違い。
x=0のとき、cosx=1≠0、2x=0だから、ロピタルの定理の条件を満たさないのでロピタルの定理は使えないというわけ。
問題2 次の極限を求めよ。
[答]
問題2は∞/∞の不定形の極限。そこで、ロピタルの定理を用いると
となるが、右辺は振動し極限値をもたないので、ロピタルの定理の成立条件を満たしていない。
だから、問題2の極限値を求めるのに、ロピタルの定理は使えない!!
また、問題2は、
が存在しないからも存在しないという主張の反例になっている。