[境界積分の積分部品(ラプラス型)] [ネコ騙し数学]
[境界積分の積分部品(ラプラス型)]
前回の最後で、境界積分を解析的に実行すると決心したのでした(^^;)。そこで境界積分に必要な積分部品をトップダウンで特定し、一つ一つ解析的に積分してボトムアップする事にします。そういう訳でここでは、記述を系統立てる記号の定義に終始します。
図-1に示した一つの境界要素kでの境界積分は、境界上で解関数ψとその外法線微分qを線形近似した場合、
となりました。Lkは要素kの長さ、ψjやqjは図-2に示した節点jとj+1でのψ(c)とq(c)の値です。
(1),(2)の境界未知数ψj+1,ψj,qj+1,qjの係数を、要素k上の未知量ψjやqjに関する係数という意味で、
と書きます。(3)~(6)を使うと(1),(2)は、
と書けます。図-2に示した幾何学的な積分パラメータによって、bj(k)やhj(k)の具体的形を与える事が、当面の目標です。
これも前回の結果から、
です。(9),(10)を(3)~(6)に代入します。
式(11)~(14)を眺めると、
という定積分を求積出来れば良いとわかります。ところで積分計算の一般的傾向として、「分母は出来るだけ簡単に、logの中身も出来るだけ簡単に」した方が、「計算としてまだマシ!」ってのがありますよね?。
よって上記は、c-s=tと置換して、
とやるのが安全です。式(19)~(22)の積分部品を拾うと、
さらに定積分は不定積分がわかれば良いので、式(23)~(26)の不定積分を(t)付きで表し、以上を全部のまとめて、ボトムアップ公式として書き出します。
大変そうに見えますが、式(27)~(30)が計算できたとすれば、その結果を、式(31)~(34) → 式(35)~(38) → 式(39)~(42) → 式(43),(44)と順番に代入して行けば良いだけです。こういう事はコンピュータの最も得意とするところです。
よってあと人間のやるべき事は、式(27)~(30)の不定積分を決定する事だけですよ(^^)。
[ラプラス型境界要素法の境界積分の詳細] [ネコ騙し数学]
ラプラス型境界要素法の基礎式は以下でした。
内点方程式:(ξ,η)はRの内点。
境界方程式:(ξ,η)はRの境界C上。
ここで求めたい未知関数ψ(x,y)はポアソン方程式、
を満たします。g(x,y)は既知関数です。(ξ,η)を特異点と呼びます。
図-1に示した領域Rが、解きたい偏微分方程式(3)の解析領域でCはRの境界とします。式(1),(2)の∫C dcは境界C上の線積分,∫R dxdyはRでの領域積分です。式(2)のkはk(ξ,η)で、その点での境界Cの内角を表します。
ψ*はラプラス方程式の基本解で、
を取れます。qとq*は、図-1に示した境界C上での外法線の方向βへの、ψとψ*の外法線微分値になります。また式(4)のrの方向をγとします。境界上のψとqが具体的に定めたい未知数になります。何故ならそれらが求まると式(1)から、領域内任意点のψの値を計算できるからです。
最初に式(1)の境界積分項を検討します。右辺の領域積分は、比較的簡単に処理できます。
ψとqを具体的に近似するために、領域Rを折れ線近似し、折れ線の各線分を境界要素と呼んで要素番号kを与えます(図-1)。線積分の定義に従い、kの番号付けはCを左回りに一周が便利です(k=1,2,・・・n)。
図-1の境界要素を一個取り出して、外法線方向βがちょうど上向きになるように描いたのが、図-2です。
∫C dcは境界積分なので、図-2の境界要素上の点(x,y)が積分点です。線積分の定義より積分点(x,y)は、右から左へ走る事になります。それに伴って積分パラメータcは、要素kの長さをLkとすれば、c=0→Lkと増加し、これが要素k上での∫C dcの積分区間になります。
要素kの長さLkが十分小さければ、要素k上でψ(c)とq(c)の変化は線形近似くらいで十分です。ψ(c)とq(c)を線形近似するために境界要素の両端に節点を配置し、節点番号jを与えます。線積分の定義に従い、jの番号付けもCを左回りに一周させるのが、一番便利です。明らかにj=1,2,・・・nで、境界要素数と同数の節点が配置されます。節点jとj+1でのψ(c)およびq(c)の値を、(ψj,ψj+1)および(qj,qj+1)で表します。
線形近似だったので要素k上では、
です。これを(1)の境界積分項に代入すると、要素k上で、
となります。
かなりごちゃごちゃしてますが(数値計算なんてそんなもの(^^;))、式(1),(2)が基礎式である限り、具体的に積分できなければお話にもなりません。そういう目で(8),(9)を見直すと、基本解に関するψ*(c)とq*(c)の具体的形が必要なのがわかります。
まずψ*(c)については式(4)よりrのみの関数なので、rをcで表せば良い事になります。特異点(ξ,η)から境界要素kへ下した垂線の長さをh,垂線の足の位置を要素局所座標系cで表した値をsとします。c=0の時とc=Lkの時のrをr1,r2として、rの方向をγで表すのにならって、r1とr2の方向をγ1,γ2とします。
図-2から、
ですが、r1,β,γ1は境界要素kの配置と特異点の位置だけで決まるので、これらはcに対して定数です。
従って、
に関する積分をすれば良い事になります。
次にq*(c)については、ψ*(x,y,ξ,η)の境界上での外法線方向微分値なので、最初に、(x,y)におけるψ*(x,y,ξ,η)のx方向偏微分とy方向偏微分を計算します。
ここでrは式(4)で表したものであり、cosθ=(x-ξ)/r,sinθ=(y-η)/rです。(x,y)が境界上にある場合は、rは式(12)で表され、図-2から明らかにθ=γになりますが、
も図-2から得られます。従って外法線β方向への方向微分の公式に(14)~(17)を使うと、
が得られます。
よって式(8),(9)の積分は、
の積分計算に帰着できるのがわかります。
(21)と(22)は、有理関数の積分になってます。なので、「やりゃ~必ず求積できる」事にはなります。(19)と(20)は、logの前にかかった1とcを先に積分する部分積分を実行すれば、やはり有理関数の積分に帰着でき、「やりゃ~必ず求積できる」事にはなりますが・・・。あえてやりたい計算ではないですよね?(^^;)。
しかしやるんです。やるべきなんです!。どうしてかと言うと、大学以上の数学において「計算すりゃぁ~答えが得られる」なんていう事態は、ほとんど万に一つの幸運だからです!。もっと賢いカッコ良い方法は、計算結果を得た後でいくらでも考え付けます。そういう事を出来るようになるためにも、地道に計算するんですよ。それが大人の数学だと思います。
ただし「岩波公式集」なんかは使って良いよ、という事にもなります。これも大学以上の数学の大人の対応です(^^)。
(執筆 ddt³さん)
複素関数の微分の補充問題 [ネコ騙し数学]
複素関数の微分の補充問題
f(z)は領域Dで定義されているとする。zがD内の点z₀に近づくとき、
が近づき方に無関係に一つの有限値に近づくならば、この極限値をf(z)のz₀における微分係数といい、であらわす。また、このとき、f(z)はz₀で微分可能という。
すなわち、
領域Dの全ての点でf(z)が微分可能であるとき、f(z)はDで正則であるという。w=f(z)がDで正則であるとき、
Dの各点zにf'(z)を対応させることにより、Dで定義された関数f'(z)が定まる。この関数を導関数といい、
例 のとき
nが正の整数で、のとき、
したがって、
問題1 次の関数はz=0で微分可能か。
【解】
z=x+iyとする。
(1) で、z≠0とすると、
直線y=mxにそってzが原点に近づけると、
この極限は直線の傾きmによって変わるのでz=0で微分可能ではない。
(2) f(z)=Re(z)=xとおき、z≠0とすると、
y=mxにそって原点に近づけると、
したがって、z=0で微分可能ではない。
(解答終)
定理(コーシー・リーマンの関係式)
がz₀=x₀+iy₀で微分可能であるための条件は、u、vがともに(x₀,y₀)で全微分可能で、
このとき、
問題2 次の関数の微分可能性を調べよ。
【解】
だから、u=x²+y²、v=0。
u,yの偏導関数は連続だから、すべての(x,y)で全微分可能。また、(x,y)=(0,0)のとき
だから、f(z)はz=0で微分可能。
(x,y)≠(0,0)では、
なので、f(z)はz≠0で微分可能でない。
(解答終)
問 コーシー・リーマンの関係式を用いて、問題1の関数の微分可能性を調べよ。
問題3 指数関数
の導関数がであることを示せ。
【解】
したがって、
よって、
したがって、u、vの偏導関数は(x,y)の全点で連続で全微分可能。
また、
となりコーシー・リーマンの関係を満たす。
したがって、はzの全点で微分可能(正則)である。
(解答終)
問題4 関数f(z)が領域Dで正則で、次の条件のいずれかを見たぜばf(z)はDで定数であることを示せ。
【解】
とする。
(ⅰ)
よって、uとvはDで定数。したがって、f(z)はDで定数である。
(ⅱ) だから。 コーシー・リーマンの関係よりとなり、f(z)はDで定数である。
(ⅲ)
したがって、
コーシー・リーマンの関係より
したがって、
u²+v²=0のとき、u=v=0。
のときだから、コーシー・リーマンの関係より。
いずれの場合も、uとvは定数となり、したがって、f(z)はDで定数である。
(解答終)
複素関数の連続に関する補充問題 [ネコ騙し数学]
複素関数の連続に関する補充問題
連続の定義
z₀がw=f(z)の定義域Dに属し、が成り立つとき、f(z)はz₀で連続という。
すなわち、
任意のε>0に対して、適当なδ>0を選ぶとき、
が成り立つとき、f(z)はz₀で連続という。
がz₀=x₀+y₀で連続であるとき、
である。
問題1 次の関数はz=0で連続か。
【解】
(1) z=x+iyとおくと、z≠0のとき
y=mx(x>0)にそってzが0に近づくとき、
これはmの値によって変わるので、は存在しない。
よって、z=0で不連続である。
(2) z≠0のとき
よって、
となり、f(z)はz=0で連続である。
(解答終)
(2)は次のように答えてもよい。
【(2)の別解】
z≠0のとき、
よって、f(z)はz=0で連続である。
(解答終)
問題2 次の関数はz=0で連続か。
【解】
(1) z≠0のとき、
したがって、f(z)はz=0で連続でない。
(2) f(0)=0。また、z=x+iyとすると、Im(z)=y。
よって、f(z)はz=0で連続である。
(別解)
z≠0のとき、
(解答終)
多変数関数の場合、ε-δ論法は複雑になるのでふつう用いないけれど、やってみますか。
とすると、g(t)は狭義単調増加関数。
したがって、0<ε<1、δ>0とし
とすると、
ε≧1のとき、δ=1とすると、
したがって、任意のε>0に対してδ>0を
にとれば、
となり、f(z)はz=0で連続である。
問題3 f(z)がz₀で連続であるとき、もz₀で連続であることを示せ。
【証明】
f(z)がz₀で連続だから、任意のε>0に対して、適当なδ>0を選ぶと、
である。
このεに対するδを用いると、
したがって、はz₀で連続である。
同様に、
したがって、はz₀で連続である。
(証明終)
とすると、
また、だから、
とすると、だから、
複素関数の極限の補充問題 [ネコ騙し数学]
複素関数の極限の補充問題
独立変数z、従属変数wがともに複素数である関数w=f(z)を複素関数という。z=x+iy、w=u+ivとすれば、
となり、uとvは2変数xとyの関数になる。このことをu=u(x,y)、v=v(x,y)と書くことにする。
複素関数の極限
任意のε>0に対して、適当なδ>0を選ぶと、
が成り立つとき、zがz₀に近づくときf(z)は極限値αに収束するといい、
とかく。
z=x+iyとすると、だから、
したがって、とすると、
また、無限遠点∞を含む極限は次のように定義する。
問題1 つぎの極限値を求めよ。
【解】
(1) z=x+iyとすると、。(半)直線y=mxにそってzを原点Oに近づくものとする。
x≠0のとき、
となり、直線の傾きmによって値が変わる。
よって、は存在しない。
(2) だから、
(3)
(解答終)
実関数の極限は、
となるので、この極限は存在しないけれど、複素関数の次の極限
で、無限遠点∞がこの極限になるので注意が必要。
また、(3)の極限を求めるときは、正式には上のように解かないといけない。
大学の定期試験で、実数の極限と同じように
と解くと、先生に、減点されたり、✕をつけられるのかもしれないので注意。
実数の極限に持ち込みたいのならば、
たとえば、
したがって、|z|=Rが十分に大きいとき、
などとすればいいケロ。
問題2 次の極限を求めよ。
【解】
z=x+iyとすると、Re(z)=x、Im(z)=y。
(1) 直線y=mxにそって原点に近づけると、
直選の傾きによってこの極限は変わるので、この極限は存在しない。
(別解)
x=rcosθ、y=rsinθとすると、
θの値によってこの極限は変化するので、この極限は存在しない。
(2)は略。この手の極限は、大体、存在しないことになっている(^^ゞ
(解答終)
問題3 次の極限を求めよ。
【略解】
z=x+iyとおくと、。
例によって、y=mx(x>0)にそって原点に近づけると、
よって、極限は存在しない。
【別解】
とおくと、
よって、極限値は存在しない。
(解答終)
この手の極限は、大体、存在しない(^^)
宿題 次の極限を求めよ。
(ヒント)
(2)は
と絶対値をとって、この極限で議論すればよい。
無限遠点とリーマン球面 [ネコ騙し数学]
無限遠点とリーマン球面
無限遠点
1次関数が
の場合、z=0に対応する点はw平面に存在しない。この例外を除外するために無限遠点∞を導入し、次のように定義することにする。
w=1/zにおいて、点zが原点であるとき、その像はw平面上の∞であり、z平面の∞の像はw平面の原点である。
無限遠点∞は複素平面の原点から有限の距離になく、複素平面上をどの方向に進んでも原点からの距離が限りなく大きくなると、∞という1点に到達する。
さらに、∞を含む演算を次のように定義する。
無限遠点∞は、微積分の無限大∞とは異なるので注意が必要である。
R>0のとき、|R|<zを満足する集合に無限遠点∞を加えたもの点集合をR近傍といい、いろいろなRに対する∞のR近傍を総称して∞の近傍といい、記号やなどで表す。
複素数列が任意のR>0に対して、適当な正の整数Nが存在し、
であるとき、数列は∞に発散するといい、
と書く。
なお、微積分で使われる無限大∞と無限遠点∞を区別するために、上式では無限大∞を+∞で表している。
この定義は、のときと定義することと同じである。
複素球面(リーマン球面)
複素平面上の原点Oに接する半径1の球面をつくり、Oを通る直径の他端をNとする(右図参照)。複素平面上の任意の点zとNを結ぶ直線はN以外のただ1点Pと交わる。逆に球面上のNと異なる任意の点Pを結ぶ直線は複素平面とただ1点で交わる。複素平面上の点zが原点から限りなく離れるとき、球面上の対応する点PはNに近づく。したがって、無限遠点∞に対応する点はNである。
このように考えたときの球面を複素球面(リーマン球面)といい、この球面上の点は∞を含めた複素平面と1対1に対応する。
Nの座標を(0,0,1)、Pの座標を(ξ、η、ζ)とするとき、
より
という対応関係にある。
問 複素平面上の次の点は、リーマン球面のどの点にうつされるか。
【解】
(1) 式(2)により
(2) 式(2)より
(3) 式(2)より
(解答終)
第60回 ルーシェの定理の応用 [ネコ騙し数学]
第60回 ルーシェの定理の応用
前回紹介したルーシェの定理
定理(Rouchéの定理)
f(z)、g(z)が単一閉曲線Cで囲まれた閉領域Dで正則であり、C上で
ならば、f(z)、g(z)はCの内部で同一個数の零点をもつ。ただしここでl位の零点はl個と数える。
は、たぶん、問題を解くときには、使いづらいと思うので、別表現のルーシェの定理を紹介する。
定理(Rouchéの定理)
f(z)、g(z)が単一閉曲線で囲まれた閉領域Dで正則であり、C上で
ならば、f(z)とf(z)+g(z)はCの内部で同一個数の零点をもつ。
z³+3z+1=0の|z}<2の解の個数について考えることにする。
f(z)=z³、g(z)=3z+1とすると、閉曲線|z|=2(原点を中心とする半径2の円)上で
したがって、ルーシェの定理より、f(z)+g(z)=z³+3z+1とf(z)=z³は|z|<2で同じ個数の零点をもつ。
|z|<2におけるf(z)=z³の零点、つまり、f(z)=z³=0となる点はz=0でこれは3位の零点である。だから、
|z|<2におけるf(z)+g(z)=z³+3z+1の零点は3個、つまり、z³+3z+1=0の解の個数は3娘である。
また、|z|<1のとき、|z|=1上で
したがって、f(z)+g(z)=z³+3z+1とg(z)=3z+1は|z|<1で同じ個数の零点をもつ。g(z)=3z+1の零点、つまり、g(z)=3z+1=0の点はで、これは1位の零点。よって、|z|<1におけるz³+3z+1=0の解の個数は1個である。
ちなみに、の実数解は、カルダノの公式から
複素数解を含めると
ここで、ωは
問題 5次方程式の複素数解は2未満であることを証明せよ。
【解】
とおくと、これは閉曲線|z|=2上で
したがって、ルーシェの定理より、|z|<2におけるとの零点の個数は等しい。|z|<2におけるf(z)=z⁵の零点はz=0でこれは5位の零点。したがって、|z|<2におけるの零点は5個。の解は5つしかないから、|z|<2にすべて存在することになるケロ。
よって、
の複素数解は2未満である。
(解答終)
第59回 偏角の原理 [ネコ騙し数学]
第59回 偏角の原理
定理(偏角の原理)
関数f(z)は単一閉曲線Cで囲まれた閉領域Dで有理型であり、C上では正則で零点をもたないとする。f(z)はCの内部に極、零点をもつとし、をの位数、をとすると、
【証明】
の1つの分枝を考えると、
となるので、
ここで、
とすると、はC上を1周しても値は変わらないので、の変化量は、と等しい。
よって、
f(z)がαをs次の極としてもつとき、αの近くで
とあらわせるので、
はαで正則だから、αはの1次の極で
同様に、βはの1次の極で
となる。
Cの内部にあるの極は、であるから、留数定理より
(証明終)
偏角の原理より、C上を反時計回りに1回転させると、w=f(z)はw平面上で1つの閉曲線をえがくことになり、
と書き直せる。この式の右辺はw平面上の閉曲線Γのz=0まわりの回転数をあらわす。
定理(Rouchéの定理)
f(z)、g(z)が単一閉曲線Cで囲まれた閉領域Dで正則であり、C上で
ならば、f(z)、g(z)はCの内部で同一個数の零点をもつ。ただしここでl位の零点はl個と数える。
【証明】
Cの内部にあるf(z)、g(z)の零点の個数をとする。仮定よりf(z)、f'(z)はC上に零点をもたないので、偏角の原理より
よって、
したがって、とおくと、仮定よりC上で|w|<1。
このとき、1+wは、zがC上を1周すると、w=1を中心とする半径1の内部で閉曲線Γをえがくことになり、w=0のまわりの回転数は0になる。
したがって、
(証明終)
偏角の原理の応用として、次に、代数学の基本定理の証明を与える。
定理 (代数学の基本定理)
複素数を係数とするn次の代数方程式
はn個の根をもつ。
【証明】
十分大きな正の数Rをとると、|z|<Rで
Cを|z|=Rとし、
とおき、 これに対してRouché(ルーシェ)の定理を用いると、f(z)はn個の零点をもつので、g(z)もn個の零点をもつことになり、定理は証明された。
(証明終)
一般の完全形 [ネコ騙し数学]
一般の完全形
n階微分方程式
の左辺の関数Fがの、ある関数Gの導関数であるとき、つまり、
であるとき、この微分方程式は完全形であるという。
また、
が完全形であるとき、λをFの積分因子という。
問題 次の微分方程式の積分因子を示し、積分により解けることを証明せよ。
【解】
(1) y'は積分因子。
両辺に2y'をかけると
また、
となるので、
したがって、
よって、一般解は
【別解】
とおくと、微分方程式は
と変形が可能。
したがって、
以下、省略
(別解終)
(2) が積分因子。
微分方程式の両辺に積分因子をかけると、
だから、
したがって、
(解答終)
これらはあくまで形式的な解です。
たとえば、(1)のという不定積分が求められる――初等的な関数であらわすことができる――とは限らないし、まして、
はなおのこと。
だから、解けるのは、次のようにP(y)がごくごく簡単な関数に限られる。
P(y)=−yだから、
c₁>0のとき、
で、とおくと、
となり、物理の単振動の方程式が得られる。
物理の力学の教科書などでは、こうした解法が取られることが多いようである。
しかし、⑨の一般解解は、特性方程式
から、
と簡単に求めらることができる。
微分方程式の解法のまとめ3の気持ち悪さの解消2 [ネコ騙し数学]
微分方程式の解法のまとめ3の気持ち悪さの解消2
問題1 次の微分方程式の特殊解を求めよ。
前回、演算子Dを用いた解法では、この問題の特殊解y₀は、
から
と得ることができ、そして、この計算法の違いから
と
の2つもので出てくるという話をした。
しかし、このままでは、やはり、まだ気持ち悪いので、演算子Dを用いない、ロンスキアンWを用いた解法でこの特殊解を求めてみることにする。
【ロンスキアンを用いた解法】
(1)式の右辺=0とした同次方程式の特性方程式φ(r)=0は
となるので、同次方程式の基本解。
したがって、このロンスキアンWは
となる。
2階非同次線形微分方程式
の特殊解の1つは
で与えられるので、
(解答終)
また、は
と部分分数に分解できるので、
となる。
このように計算すれば、この計算法がロンスキアンを用いて特殊解を求める方法と同じものになることがわかる。
だから、禍根を残さないように、微分方程式(1)の特殊解は
を選択するべきであった。
こうなるように問題を解けば、「(1)の特殊解を求め方によって特殊解が異なる」ということを表面化させることなく、そして、「なぜ、計算の仕方によって、(1)の特殊解が異なるのですか」という問題を永遠に闇に葬り去ることができにちがいない(^^)
【補足】
ちなみに、微分方程式(1)の両辺をxで2回微分すると、次の微分方程式が得られる。
この微分方程式の特性方程式は
よって、この微分方程式の基本解はとなるので、(2)の一般解は
あるいは、とおくと、(2)は
この一般解は
となるので、これから
微分方程式(1)の基本解はだから、C₁=C₂=0としたが(1)の特殊解であるとすると、
これが任意のxについて成立するので、
したがって、
今回の騒動の原因となった元凶の微分方程式は
だ。
になることに注目し、(3)の両辺に(D−1)²をかけると、
したがって、この特性方程式は
よって、(3’)の基本解はである。
何か、気づきませんか?